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月刊ヤマガタ2月号のトーク

2月23日(月)の月刊ヤマガタ2月号『チーズとうじ虫』の上映後、
『チーズとうじ虫』と『長江にいきる』の宣伝を担当している原田徹さんと、
両作品の音の仕上げ作業に関わっている菊地信之さんが、トークゲストとして参加しました。

個人で作るドキュメンタリーの公開と、音響が作り出すもうひとつの物語について、それぞれの経験を交えて、笑いも誘いながらのトークは、
興味が尽きないあっという間の1時間。

ドキュメンタリー作品や個性的な作家の宣伝仕事が多いという原田さんは
宣伝の醍醐味を、作品をどうやって宣伝していくのかを発想し、
構成していくというスリリングな魅力と人との出会いであると。
劇映画とドキュメンタリーといったジャンルに括られない
映画との関わりを持ち続けている菊池さんがされた、音響設計が膨らませる効果のみならず、音を作ることと作品を公開していくことは別々の作業ではなくて切り離せない一体である、というお話は『長江にいきる』での配給宣伝活動の精神にも引き継がれている、印象的なお話でした。

昨日からフォン・イェン監督が来日。
雪模様となった27日の東京ですが、今晩はアテネフランセ文化センターで、
17:00から『辺田部落』の上映後に、「フォン・イェンと小川プロの絆」について講演があります。
ぜひ彼女の熱い語りに耳を傾けにいらして下さい。
もちろん、来週の7日の舞台挨拶やトークイベントもどうぞお楽しみに!
                            DDセンター 濱治佳
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by bingai | 2009-02-27 14:39

音、もうひとつの物語(その2)

 音響設計の菊池信之です。
 山形映画祭終了後、監督は程なくして中国に帰国した。
 その後、中国と日本とでデーターを受け取り、メールのでのやり取りから始まって音として完成するまでに2ヶ月半を要した。

 仕事の内容について、監督と直接話しが出来る時間はほとんどなかった。なぜなら私がこの仕事を引き受ける事が決まったのは、帰国直前だったのだ。
 監督が日本に居たときに残していった言葉の部分的な記憶と、作品としての映像だけで、音の状況を積み重ねて行くことから始まった。

 作業は、映画祭に出品した作品の音のデーターを解きほぐすことから。中国で整音を担当した前任者、張さんは山形版を3日間という時間の中で仕上げなければならなかったそうである。その3日間の時間の中での仕事は実に丁寧だった。私が音の再構成をするにあたって、張さんはご自分の作業したデーターを快く提供してくれたので継続して作業が出来た。とても助かり感謝している。

 最初に監督から受け取った材料は、その時の編集データー、つまり同時録音のものが中心だった。しかし私はそれとは別に音だけの素材はあるはずだと思っていた。木々のざわめき、川の音、そして生活の音。どんな音があるのだろう。先ずその音を聞くことから始めたいと、とても楽しみにしていた。

 しかし送られてきた音の素材は驚くほど少なく指折り数えられるほどだった。音の仕事をしている私の場合、一ヶ月程度の撮影期間があったら数え切れないほどの音を録る。驚いた私に監督から申し訳なそうなメールが入った。
 「撮影当時は映像を撮る事だけしか頭になく、音の関する意識は全くなく、音だけを録るという発想がなかったんです。」と。
 それなら、本編に使われていない撮影テープの中に欲しい音はいくらでもあるはずだ、その中の音を送って貰おうとしたがこれも考えが甘かった。
 7年にも及ぶ撮影の中で撮りためたテープの中から必要そうな音を選び出すには、その膨大な資料を整理しなおさないといけない。この作品の続編(新作)を編集中の監督にそれは現実的な事ではなかった。

 しかし、僅かながらと言ったその音はさすがに現場の音である。家畜の鳴き声、小鳥の声、木々のざわめき…。映像と重ね合わせると、秉愛を取り巻いていたであろう音としてその空間を形作った。
 畑作業の時に吹き抜ける風も、遠くに聞こえる鶏の声、秉愛と共にあったその音は、やがて水の中へと消えて今はないのであるが、それは水の中でも響き続けているような印象をこの仕事の最後に与えてくれた。

 撮影の瞬間は予測しない音が入って来ることがよくある。その予測していないと言うことは、我々の意識を越えて、むしろ現実の深さや複雑さを感じさせる。しかし時には条件によって現実に在りながら収録できない音も沢山ある。足りない音は私の録りためていた音を使うこともある。自然の音が中心だったが地形、距離感などが同じ状況のものを注意深く選んだ。
 以前から私は、現実の音を録る場合に、月日、時間、周りの状況を一緒に録音しておくことを習慣付けていた。「○月○日、午後××時頃、幅何メートル位の川、距離は・・・、遠くに国道がはしっています」などのように。後で同じ状況の音を選び出すのに具体的な説明が必要なのだ。私が求めているのは分かりやすい音、典型的な音ではなく、具体的な「存在」としての音なのである。

 現実には様々な音がある。川の音を一つとっても、聞こえないようなレベルでも木々のざわめき、遠くの車の騒音、いろんな音が含まれている。それら夾雑物が含まれているのが現実の音なのだと思う。全ての音にその夾雑物は含まれている。むしろ夾雑物そのものが世界なのだと思う。

 川という意味(のある音)とそこに誰かがやって来るという意味(の音)だけでは世界は動かない。風による木々のざわめきもあれば、遠くの工事の音もあるだろう。それが川という存在、人という存在を支えていると思う。人物が、風景が、どの状況に置かれているのか、背景となる音が必要なのだ。その置かれている状況(音)によってその人物の感情、思考は影響されると思う。

 しかし、現実社会に氾濫する音の中で、その人が置かれている状況、意識、感情によって聞こえてくる音も聞こえない音もある。そうした感情や状況にどう寄り添うかが映画をリアルへと導く。音の選び方によって、写されている人物や物との関係は形成される。これを「まなざし」と言ってもいいと思う。

 撮影者が現実を見つめる場合に、風景でも人物でも、どの距離感でそれを見ているのか、その「距離」の取り方はまた大事だ。それによって音の選び方も変わってくる。
 説明が難しいのだが、一台の車が走る。道路を含む風景の一つとして見るのか、その走る車に何らかの感情があって、その感情で見るのかによって音も変わる。
 いわば、映画(の意識)が何処に位置しているのか、映画の「立ち位置」によって、音のあり方が違ってくるのだ。(音の在り方によって映画の立ち位置が変わるともいえる)

 面白いのは、こうして音を構築していくときに、映像の見え方が変わってくるし、その変わり方は音をあててみないと分からない。音をあてる時が、映像が生まれ変わる瞬間なのだ。映像の細部が見えてくるし映像の奥行きも感じる。そしてその事によって映像編集の意図が見えて来るのだ。
 監督との打ち合わせの時間もないまま仕事を進めることができたのは、音を積み重ねることで見えてくる世界があるからなのだ。
こうして音の作業は続いた。

 音響設計と言っても私の場合、頭の中に浮かんだイメージを都合良く当てはめるのでなく、映像の現実に寄り添うことで音のあるべき形がみえてくるのです。
 映画の内在する現実が、いままで気づかなかった空間へと広がってくるのです。
 映画が映像だけではない「もう一つの物語」としての音を含んだ時に、映画が更に大きく発展するのだと思います。


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by bingai | 2009-02-10 01:36

先行上映会のドキドキ

DDセンターの藤岡です。

1月28日・29日の二晩、映画館ユーロスペースさんのご好意で、特別に先行上映会を開催しました。マスコミ試写会は満席に次ぐ満席で、噂を聞きつけた一般の方々から聞こえてきた「早く見たい!」との声を受け、ロードショー前はなるべく見せない、というアート系映画業界の常識を覆し、やってしまいました。
映画評や記事がまだほとんどマスコミに出ていない(公開直前にドッと出るように、宣伝マンが調整してくれるのです)ときに、数百枚のチラシとホームページだけでどれだけの人が来るのか? 平日の夜11時終了という遅い時間で? ロードショーと同じ有料料金で? 

結果、140席がいっぱいになる、というわけにはいきませんでしたが、両日とも安定した動員で、しかも熱い感想のアンケートが手元に残りました。

ビンアイさんはまだ生きていますが、私は言いたい。「あなたは骨身を惜しまず、よく夫やこどもの面倒を見ましたね。そして、理不尽な政府の要求に身をもって抵抗しました。あなたのような人が中国を少しずつでも風通しのよい住みやすい国にしていくのだと思います。娘さんと息子さんはお母さんとお父さんの姿を見て力強く生きていって欲しいです。」

ジャ・ジャンクーの『長江哀歌』を観ていたので、そこに生きている人たちの「現実」を知ることができるかしら?と思って観たのですが、こんなにも横暴で非情な「現実」だったなんて…。私だったら、彼女のように抗うことができたかしら?強く生きていくしかない女性の姿に、「負けるな!加油!」と心から送りたいです。


それにしても。本番のロードショーまであと一ヶ月ですが、上映をする度にドキドキ度が上昇する気がします。この映画が一般のお客さんと出会っていくことを、強く意識するようになっているのでしょう。何人くるだろう、どんな人が来るだろう、おもしろく感じてくれるだろうか、部屋は寒くないだろうか、音量は十分だろうか。
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先行上映に来てくれた方には、出口でささやかなお礼をさせていただきました。インフルエンザが流行っています。皆さんにもビタミンCと秉愛の生きるパワーを!
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by bingai | 2009-02-06 17:36