人気ブログランキング | 話題のタグを見る
<< 記事が出てます 月刊ヤマガタ2月号のトーク >>

フォン・イェンの講演会

DDセンターの藤岡朝子です。

渋谷ユーロスペースでの初日まであと一週間を切りました。
そして監督のフォン・イェンがまた来日し、彼女一流のいつものパワーを振りまいてくれています。

27日(金)は彼女のドキュメンタリー人生を深く影響した小川プロ作品の特集上映で講演がありました。1993年の山形映画祭に誘われて出会ったドキュメンタリーの衝撃、朝から晩まで見続けて、夜は新刊の『映画を穫る』(小川紳介著)をホテルで夢中になって読みふけったこと。中国でドキュメンタリーを作り始めた若者たちから「翻訳してほしい」と懇願されて台湾で出版された経緯。この本が今の中国で「ドキュメンタリーの聖書」のようにして読まれていること。最近中国で相次ぐ小川プロ特集上映が中国ドキュメンタリストに与えた影響。自分が撮るようになったときに意識した小川紳介の映画論。そして今、映画音響の菊池信之さんと仕事をするようになったことから改めて思う、小川プロとその時代の遺した思想。

60人ほどのお客さんを前に、フォン・イェンは1時間ほど話しました。おもしろい話だった、と友人たちは終わって口々に言っていましたが、緊張していたフォン・イェンは、視線が泳いだり、言葉に詰まったり、具体性が足りない部分も多かったと私は感じて、私はつい「うーん、いつものフォン・イェンのトークのおもしろさを知っているだけに、今日は50点かなあ」と彼女に言ってしまいました。

いつもの彼女の話は本当におもしろく、まるで目の前に絵が見えるような話の具体性と、生き生きとしたエネルギーに、聞いていてすっかり巻き込まれてしまうので、つい今日は辛口の点をつけてしまいました。彼女は少し落ち込んだようで、私はすぐに自分の言葉を後悔しました。

アテネ・フランセ文化センターに来ていたお客さんは8割が20代~30代の男性でした。たぶん、いかめしい顔をして無表情にフォン・イェンの話を聞いていたことでしょう。(私には彼らの頭の後ろしか見えなかった。)いつも人との交流の中で話に花を咲かせるフォン・イェンはさぞやりにくかったんでしょうね。今後のトークでは、ぜひ前列の皆さん、うなづいたり笑ったり、反応してあげてくださいね。


フォン・イェンの講演会_c0185096_212576.jpg


ちょうどこの日の読売新聞と朝日新聞の夕刊に、『長江にいきる』のすばらしい映画評が出ました。どちらもいいんですが、朝日新聞はまるで小川プロ特集で話すこの日のフォン・イェンを祝福するかのような文面でした。

…小川(紳介)といえば、成田空港建設への反対闘争に立った農民たちを描く連作で知られるが、本作を見ると、少なくとも二つの点で彼女が小川のDNAの継承者であるとわかる。まず国家の政策によって愛着のある土地を離れるよう強制され、抵抗する農民を被写体とする点。そして長期にわたるスパンで被写体と成熟した関係を築き、ジャーナリスティックな取材ではけっして到達できない類いの映像体験を僕らにもたらす点において……。…
(北小路隆志・映画評論家)

by bingai | 2009-03-02 02:08
<< 記事が出てます 月刊ヤマガタ2月号のトーク >>